成人脊柱変形に対する外科的治療
—その考え方と手術ストラテジー— Surgical treatment for adult spinal deformity
-The way of thinking and surgical strategy-

疾患概念

 成人脊柱変形学会が立ち上がったのは、2011年の9月23日に札幌で佐藤栄修先生が日本腰痛学会を開かれた日からである。その当時鈴木信正先生、野原裕先生、植山和正先生、司馬立先生、種市洋先生、そして私の6人が集まった会合で、鈴木信正先生が「日本で成人脊柱変形学会を作り、この概念を理解し、そして日本の脊椎外科医に周知する必要がある」と強く提案されたことが発端であった。その理由は、腰椎変性側弯症の定義や疾患の概念も未だ一定のコンセンサスがなかったからである。腰椎変性側弯の分類も日本では1987年に戸山先生の単純X線画像形態、すなわちS字状のTYPE1とC型のTYPE2の分類があるが、鈴木先生は2004年にTYPE 1: 既存の側弯に変性変化を伴った特発性側弯症の成人移行礼、TYPE2: de novo typeの変性変化によって側弯が生じ、かつ側弯が症状の主体である(腰痛、姿勢不良など)、TYPE3:変性疾患に側弯を合併しているが、症状の主因は狭窄によるもの、すなわち狭窄症であると論述している。まさに腰痛を呈する変形性脊椎症が、脊柱管狭窄症なのか腰椎変性側弯症なのか、変形を伴った脊柱管狭窄症なのか、また両方の治療が必要なのかを明確にして手術計画をたてるべきであることを主張した論文を出されている。

 すなわち脊柱管狭窄と側弯変形があっても、腰痛はなく間欠性跛行や下肢のしびれや痛みなど神経刺激症状が主体であれば、たとえ側弯変形があったとしても腰部脊柱管狭窄症として診断し、治療も変形矯正に主眼を置くのではなく、除圧あるいは除圧固定の狭窄症に対する術式を選択すべきである。

 また側弯変形でも30度を超えるような場合や後側弯変形のように後弯変形も伴ってくると腰痛を生ずることが多く、このような場合は変形を矯正する必要があり変性後側弯症と診断すべきである。この事実を良く理解してなく、またしっかりとした定義もなかったことからこの必要性を感じて立ち上がった学会である。

 2011年11月に第一回目の成人脊柱変形学会が済生会中央病院で鈴木信正先生が初代会長として生まれた。初回当時は、正式な学会名はなく、この第一回目の幹事会で討論され、第2回目を私が東京コンベンションルームAP品川で日本成人脊柱変形学会として開催させて頂いた。1回目から200名近くの参加者が日本全国から集まり、2回目には300名を超える参加者を集めた。すなわち、成人脊柱変形の概念はどのようなものなのか、また脊柱変形に限らず、背骨全体を評価するにあたっては全脊柱立位正面像と側面像の評価が必要で、さらに矢状面アライメントの評価と骨盤パラメーターの評価方法の確立が多くの脊椎外科医にとって新鮮であり、また何の指標を目的として矯正固定をしたら良いのか大きな道標を得たような新鮮さを感じたことをよく覚えている。SRSでSRS-Schwab 分類が登場したのは2012年であり、我々のスタートとほぼ同時期に欧米でもこの成人脊柱変形治療は注目されるようになった。この日本成人脊柱変形学会が発足し、早10年の月日が過ぎようとしている。脊柱変形の治療だけでなく、予防が最も大切であることは忘れてはならない。脊柱変形は頭から足までのアライメントとバランスを常に考え、脊椎のアライメントだけではなく、骨粗鬆症の問題や筋肉の評価の大切さ、そして痛みの評価と治療においても十分な考察と研究が必要である。

 日本成人脊柱変形学界が始まってもう10年なのかまだ10年なのか..まだまだ我々がAIやロボットを導入した医学をこの成人脊柱変形の病態解明と治療に生かしてやるべきことは多いと感じる。

日本成人脊柱変形学会 事務局長

浜松医科大学整形外科学教室 教授

松山幸弘

静岡県浜松市東区半田山1-20-1

Yukihiro Matsuyama MD.
Professor and Chairman
Department of Orthopaedic Surgery
Hamamatsu University School of Medicine